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台本の直しが入るだとかで、撮影は一時中断された。
額をつき合わせるディレクターとメインキャスト達。日織は人気のないセットの片隅に移動すると、丸めた台本でぽんぽんと肩を叩きながらその光景をながめた。
ディレクター相手になにやらまくし立てているのは、売れっ子の芸人だった。今日の仕事は普段よく出ている時代劇ではなく、バラエティ番組の中に挿入される短いコントのエキストラなのだ。
普段は不真面目でいい加減なキャラクターをウリにしている芸人が、ものすごい真顔で話している姿はなかなか新鮮だった。
――時間にすりゃほんの2、3分のVTRなのにねぇ…。
自分の数十倍は稼いでいる彼が、その2、3分でどれだけ笑いを取るかに残りの人生を全部賭けているかのような態度で真剣に話し込んでいる。
しかもその内容は、より自分が馬鹿に見えるようにする方法なのだ。
こういうのが見られるだけでも、役者は楽しいと日織は思う。本当にこの業界は毎日見ていても飽きない事だらけだ。
「いよっ、日織ちゃーん!」
威勢の良すぎる声に顔を上げると、番組のプロデューサーが手を振っていた。
「あ、こりゃどうも……」
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最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。
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