|

|

|
館はいつの間にか、陰鬱な色をした雲に取り囲まれていた。
灰色のそれは生き物のようにじわじわと広がり、見える限りの空をすべて覆い尽くそうとしているようだった。
――これは降るな…。
朝のうちはこんな曇天が想像も出来ないほど晴れ渡っていたのに。だが今は、知らぬふりも出来ぬほど雨の気配がそこいらじゅうに満ちている。
――まるで、天気まであつらえたようだ。
この付近には、目の前にある館以外の建物は一軒もない。館へ至る道もまた一本道で、かなり山を下ったところまで行かなければ分かれ道すらないのだ。
館以外に何もないのだから他に道など必要ないのだろうが、それにしてもよくもまあ、こんな都合のいい建物があったものだと感心する。
そして今、館は雨に閉ざされようとしている。薄気味悪いほど、脚本どおりに。
低く唸るような自動車の音が近付いてくるのに気付き、館の石壁を仰ぎ見ていた目をそちらへ向けた。繁った木々の間を、
地元の駅前に並んでいたのと同じタクシーの黄色い車体が、舗装されていない山道に悪態を吐くかの如くガタガタ揺れながらやって来る。
――誰だろう。
|
|
|
最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。
|
|