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上り坂の上に悪路のためスピードの出ない車を、じりじりした気分で見守りながら、この館へと招かれた登場人物を一人一人思い浮かべた。
指定された時間より少し早いから、律儀な人物かもしくはせっかちなのか。しかし“執事”ではない事だけは間違いない。何せ“執事”はもう既にここで客を待っている…。
そこまで考えたところで、ぽつりと頬に冷えた刺激が走った。
思った通り――いや、思っていたよりも早く、雨が降り出したのだ。まだ細かい霧雨だったが、それがかえってじっとりした不快感となり肌にまとわりついた。
額から眉間を伝ってきた雨だか汗だかわからないものを手の甲で拭い、館の手前、木々が途切れて少しばかりの空き地になった部分に停まった車を凝視する。
タクシーのドアが開いた途端、ひらりと身軽な動きで小柄な人影が飛び出してきた。
――あの子は…。
見覚えのある顔だった。まだ知名度こそ低いが実力は文句なしと評判の若い女優だ。なるほど、と納得する。彼女ならば“招待客”の一人として選ばれても不思議はない。
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最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。
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