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少女は中途半端な降りの雨に顔をしかめたが、一目散に館に飛び込もうとはしない。それどころか、今降りてきたばかりのタクシーを振り返って車内に顔を突っ込み何事かまくしたてた。
「……やって! 降ってきてるんやもん!」
断片的に、天気に対して文句を言っているらしい声が聞こえてくる。
――あんなにはきはき喋る子だっただろうか。
自分の記憶にある少女と、ずいぶん印象が違うように思った。
ばん、と後部のトランクが跳ね上がった。それを見て少女はまたくるりと身を翻し、トランクから大きなボストンバッグを引っ張り出そうとする。
「お客さん、大丈夫かね」
一呼吸遅れて、初老の運転手がおっとり刀で降りて来て手を貸した。
「うん、大丈夫。ありがとう、遠いとこまで」
「いやぁ、わしゃあ仕事じゃけぇええけども、このまま天気が崩れるようじゃあ、あんたら山ぁ降りとぅても降りられんようになるかも知れんで」
「ええのよ、どうせ一週間は帰れんもん」
「はぁ、一週間ものぉ…」
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最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。
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