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日織は開いていた台本を閉じながら挨拶しようとしたが、
「相変わらず着流し似合うねー! 得だよね日織ちゃんの風貌ってさ。いかにも時代劇顔っつーか、あーそうそう殺陣も出来るんだっけ?剣道部だったんだっけか、いいねー剣道。よっ、日本男児!」
相手は息継ぎする暇すら惜しいのかという勢いで話し続ける。
「いや、俺がやってたのは古武道で」
訂正しようとしたが、案の定プロデューサーはまるで聞いていなかった。適当な相づちを返すと、どこそこの事務所のなにがしも剣道部だとか、
殺陣といてばこの前こんな事があっただとか、ひとりで勝手に喋りつづけて気が付けば話は殺陣も剣道も全然関係ないところまで飛んでいた。
「……でさ、そのロケ先でコレが出たってーのよ」
コレ、と言いながらプロデューサーは両手首をだらりと下げた格好で腕を肩の当たりに持ち上げた。
「はあ、幽霊ですかい?」
「そう! そーなんだよ定番だよね定番。納涼! 日本の夏! …ってやつ?」
そんな気合いの入った感嘆符付きの納涼では、かえって暑苦しそうだが。
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最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。
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