「日織編」 “落ち武者にしておけば”Written by Yuki Nishinomiya
挿絵
「廃村の落ち武者はどこいっちまったんですかい」
「へ? ………ああ、そうそう落ち武者! そうだ落ち武者だよ日織ちゃん…って、ああ埋まってんだっけ?
そかそか、それじゃー仕方ないなー。忠さんにでも声掛けてみっかなー、んじゃーねー。令嬢の霊によろしくー」
 言いたい事だけ言って何やら勘違いしたまま、プロデューサーはさっさと立ち去ってしまった。
「……だから怪談じゃねえってのに、しょうがねえ人だなぁ」
 常にあの調子なのだから困ったものだ。しかもあれで言うだけの数字は実際に取っているから恐れ入る。やっぱりこの業界はわかんねえ人が多い、と日織は思った。
 ――でもまぁ、ある意味幽霊より変な話ではあるか…。
 来週の仕事は今までにもらったどれよりも奇妙なものだった。何せ、オファーを出してきた相手がどんな人物なのかすらわからないのだ。 大ヒット作品の脚本家なのに誰もその正体を知らない、それがかえって評判になっているという人物だった。
 正直、不安に思うことがないわけではない。それはなぜか、相手が何者かわからないからという理由ではないような気がしていた。何か得体の知れない違和感のような……。
Illustrated by Koji Nishino ©2006 FOG / NIPPON ICHI SOFTWARE INC.
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「和編」「日織編」「館編」「続・館編」「続・和編」
最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。