「館編」 “脚本どおりに”Written by Yuki Nishinomiya
挿絵
 鞄と一緒に降りようとしてつっかえてしまい、もう一度車内に引っ込んで出直す始末である。
 間違いなく、こっちが自分の知っている女優だ、と思った。
 あの、どことなく眠そうな顔つきにも覚えがある。
「……雨」
「だから降ってる言うたやないの」
 今更のように天を仰いで呑気なことを言う姉の手を引こうとして、妹ははっと動きを止めた。いつの間にか近寄って来ていた姿に気付いたのだ。
「――お待ちしておりました」
 かしこまった様子で双子に一礼する。
 きょとんとした顔をして、“執事”の顔を見上げる妹。それに対し、姉は妙に楽しげに猫のような笑みを浮かべると、執事さん、と呟いた。
「はい。当家の執事で、椿と申します」
「え? まさか、もうカメラ回ってるん?」
 妹の方が慌てたように辺りを見回す。
「違うと思う」
Illustrated by Koji Nishino ©2006 FOG / NIPPON ICHI SOFTWARE INC.
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「和編」「日織編」「館編」「続・館編」「続・和編」
最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。