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ぎょっとしてそちらを見ると、壮年の男性が腹を抱えて笑っている。明らかに自分を見て吹き出したようであり、和は恥ずかしくなってあたふた立ち上がろうとした。
「はっはっはっは! いやー、すまんすまん!」
男性は爆笑しながらも和に手をさしのべる。
「大丈夫か少年?」
「え、あ、はい」
おずおずと和が差し出された手に掴まると、男性は眼鏡の奥でにやりと目を細めた。そしてひょい、とばかりに軽々と和を引っ張り上げる。年の頃は50代くらいと思ったが意外なほど力強かった。
「悪いな、笑っちまって。あんまり見事な転びっぷりとナイスリアクションだったもんでつい、な」
「はあ……」
はっきり言われて照れくさかったが、それほど嫌な感じはしなかった。こういう時は見て見ぬふりをされる方が恥ずかしいものなのかもしれない。
それとも、この男性のどこか不思議に人を納得させる渋い声のせいかもしれない。
ぼんやりととりとめのない事を考えていると、男性は顎の無精髭を撫でながらまた吹き出しそうな顔になる。
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最後のショートストーリー『目を覚ますまでは』が2/28発売の『ゲーマガ』4月号に掲載されています。
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